オーストラリアのABNとは?個人事業主・Uber・配達員などで必要になる番号を解説
オーストラリアで仕事を探していると、「ABNを持っていますか?」と聞かれることがあります。
特に、ウーバーイーツ(Uber Eats)などのフードデリバリー、建設現場の仕事、清掃、フリーランスの仕事などを考えている方は、ABNという言葉を見かける機会が多いのではないでしょうか。
「ABNとは何?」「TFNとは違うの?」「ワーキングホリデーでも取得できる?」「ABNを持っていれば税金が安くなる?」など、初めてオーストラリアで働く方には分かりにくい点もあると思います。
ABNは、オーストラリアで事業を行う個人や会社などに発行される番号です。
例えば、自分で仕事を請け負う個人事業主や、独立した配達事業者、フリーランスなどが利用します。
日本人のワーキングホリデー渡航者でも、条件を満たしていればABNを取得できます。また、オーストラリア政府の公式サイトから申請すれば、取得料金は無料です。
ただし、注意したいことがあります。
ABNは、取得すれば誰でも自由に働ける許可証ではありません。また、ABNで仕事をする場合には、通常のアルバイトとは税金や契約の取り扱いが異なります。
特に、雇用主から「ABNを取れば最低賃金は関係ない」「ABNなら退職年金を払わなくてよい」と説明された場合は、その内容が正しいとは限りません。
この記事では、オーストラリアのABNについて、TFNとの違い、申請方法、ウーバーや配達員の仕事、GST、税金、経費、労働者としての権利まで、2026年10月時点の公式情報をもとに詳しく解説します。


- ABNとは?オーストラリアの事業者番号
- ABNとTFNの違い
- ABNが必要な仕事・不要な仕事
- ワーキングホリデーでもABNを取得できる?
- ABNの申請条件と必要な情報
- ABNを無料で申請する方法
- ABNが発行されるまでの期間と申請料金
- ウーバーとウーバーイーツではABNの扱いが違う?
- GSTとは?A$75,000の登録基準を解説
- 個人事業主と従業員の違い・偽装請負に注意
- ABNで働く場合の請求書と給与の受け取り方
- ABNで得た収入の税金とタックスリターン
- 配達・フリーランスの必要経費はどこまで認められる?
- スーパーアニュエーション・保険・就労上の注意点
- 帰国・廃業するときのABNの取り扱い
- よくある質問
ABNとは?オーストラリアの事業者番号
ABNは、オーストラリアン・ビジネス・ナンバー(Australian Business Number)の略です。
オーストラリア国内で事業を行う個人や会社などを識別するための、11桁の番号です。
ABNの登録を管理しているのは、オーストラリアン・ビジネス・レジスター(Australian Business Register/ABR)という政府機関です。
事業者はABNを使って、取引先との契約、請求書の発行、税務登録などを行います。
例えば、個人でウェブサイト制作の仕事を請け負う場合や、独立した配達員として仕事をする場合などです。
ABNを持つということはどういう意味?
個人事業主として事業を行う場合、自分自身が事業の責任者になります。
仕事を受注し、代金を受け取り、必要な経費を支払い、収入や支出を記録して税務申告を行います。
会社を設立する必要はなく、個人で事業を行う形をソール・トレーダー(Sole Trader)と呼びます。
日本の個人事業主に近い仕組みです。
ただし、個人事業主は、事業に関する債務などについて個人で責任を負います。会社を設立した場合とは、法律上の責任が異なります。
ABNは会社だけの番号ではない
ABNという名前から、会社を経営している人だけが使う番号と思われるかもしれません。
しかし、個人事業主も取得できます。
小規模な仕事であっても、継続的に商業活動を行う事業として認められれば、ABNを取得できる場合があります。
一方、単にアルバイトをしているだけの人が、自由にABNを取得してその仕事に使用できるわけではありません。
ABNの取得には、実際に事業を営んでいる、または事業開始のための具体的な準備を行っているなどの条件があります。
公式情報:オーストラリアン・ビジネス・レジスター:ABNの取得資格
ABNとTFNの違い
ABNとよく混同されるのが、タックス・ファイル・ナンバー(Tax File Number/TFN)です。
TFNは、オーストラリア税務局(Australian Taxation Office/ATO)が発行する税務番号です。
一般的な会社員やアルバイトだけでなく、個人事業主も税務申告などに使用します。
ABNとTFNは、どちらか一方を持っていればもう一方が不要になるというものではありません。
| 項目 | TFN | ABN |
|---|---|---|
| 正式名称 | Tax File Number | Australian Business Number |
| 桁数 | 通常9桁 | 11桁 |
| 主な用途 | 個人の税務管理 | 事業者の識別 |
| 一般的なアルバイト | 通常必要 | 通常不要 |
| 個人事業主 | 税務申告などに使用 | 事業活動に使用 |
| 公式申請料金 | 無料 | 無料 |
例えば、レストランにカジュアル従業員として雇用される場合、通常はTFNを雇用主へ提出します。
一方、自分でウェブサイト制作の仕事を請け負い、取引先に請求書を発行する場合は、通常ABNを使用します。
その後、個人事業主として得た利益をタックスリターンで申告する際には、自分のTFNを使用します。
個人事業主でもTFNは必要?
はい。個人事業主は、個人のTFNを使って所得税を申告するのが基本です。
会社とは異なり、ソール・トレーダーの場合、通常は事業用に別のTFNを取得する必要はありません。
すでにワーキングホリデーでTFNを取得している方は、その番号を引き続き使用できます。
TFNの取得方法については、関連記事「オーストラリアのTFN申請方法|ワーホリ到着後に無料で取得する手順と注意点」を参考にしてください。
ABNが必要な仕事・不要な仕事
ABNが必要かどうかは、仕事の種類だけでなく、従業員として雇われているのか、独立した事業者として仕事を請け負っているのかによって異なります。
例えば、同じ配達の仕事でも、会社に雇用されている場合と、独立した事業者として配達を行う場合では扱いが違います。
| 仕事の例 | ABNの扱い |
|---|---|
| レストランのカジュアル従業員 | 通常不要 |
| ホテルのパートタイム従業員 | 通常不要 |
| 会社に雇用される配達ドライバー | 通常不要 |
| 独立したフードデリバリー配達員 | 通常必要 |
| 独立したライドシェアドライバー | 通常必要 |
| フリーランスのデザイナー | 事業として請け負う場合は通常必要 |
| 独立した清掃事業者 | 通常必要 |
| 会社の従業員として働く建設作業員 | 通常不要 |
| 独立した建設関連の請負事業者 | 通常必要 |
ただし、業務の名称だけで判断できない場合もあります。
例えば、建設現場で「コントラクター(Contractor)」という名称で働いていても、実際には勤務時間や仕事内容を会社が細かく管理し、従業員と同じように働いている場合があります。
こうした場合は、単に契約書にコントラクターと書かれているだけで、独立した事業者として認められるわけではありません。
趣味で不用品を売る場合もABNが必要?
例えば、引っ越しのために古い家具や衣類を売却するだけなら、通常、そのためにABNを取得する必要はありません。
一方、商品を継続的に仕入れて販売し、利益を得ることを目的とした事業を行う場合は、ABNの取得対象となる可能性があります。
ABRは、事業性を判断する際、営利目的、継続性、事業規模、記録の管理などを考慮すると案内しています。
単に一度だけ物を売ったという理由で、必ず事業者になるわけではありません。
ワーキングホリデーでもABNを取得できる?
日本のパスポートを持ち、オーストラリアのワーキングホリデービザで滞在している方でも、条件を満たせばABNを取得できます。
重要なのは、実際にABNの取得資格がある事業を行っていることと、ビザの就労条件を守っていることです。
ABNそのものに、オーストラリアでの就労を許可する効力はありません。
ワーキングホリデービザ417では、原則として滞在期間中にさまざまな種類の仕事をすることができますが、同じ雇用主のもとで働く期間などに制限があります。
個人事業主にも6か月の就労制限が関係する
ワーキングホリデービザには、ビザ条件8547という規定があります。
これは、原則として同じ雇用主のもとで6か月を超えて働くことを制限するものです。
この規定は、単に雇用契約を結んでいる従業員だけでなく、個人事業主として働く場合にも関係します。
内務省は、個人事業主の場合、実際にサービスの提供を受ける最終利用者(End User)を、6か月制限の判断対象として扱うと案内しています。
ただし、複数の顧客へサービスを提供する場合や、対象となる例外業種で働く場合には、異なる取り扱いが認められることがあります。
例えば、複数の顧客にサービスを提供する独立した清掃事業者と、実質的に1社だけへ継続してサービスを提供する事業者とでは、事情が異なります。
また、2024年1月から、農業、観光・ホスピタリティー、医療、介護など一定の分野では、事前許可なしで同じ雇用主のもとで6か月を超えて働ける例外が設けられています。
ABNを取得したからといって、こうしたビザ条件を無視してよいわけではありません。
長期間同じ取引先で働く予定がある方は、内務省の公式案内で条件を確認してください。
オーストラリア内務省:ワーホリの6か月就労制限と個人事業主の扱い
ABNの申請条件と必要な情報
ABNを取得するには、オーストラリアで事業を行う資格があることが必要です。
すでに営業している事業だけでなく、具体的な開業準備を始めている場合も、申請の対象になることがあります。
例えば、事業用の設備を購入する、仕事の見積もりを提出する、必要な保険を手配するなど、実際に事業開始へ向けた活動がある場合です。
一方、特に事業を始める予定がなく、単に番号だけを取得しておきたいという場合は、取得資格を満たさない可能性があります。
個人事業主のABN申請で準備しておきたい情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | パスポート等に記載された正式な氏名 |
| 生年月日 | 本人確認のための情報 |
| TFN | すでに取得している場合 |
| 住所 | 事業所在地・連絡先住所 |
| 電話・メール | 連絡可能な情報 |
| 事業内容 | 配達、清掃、デザインなどの主な活動 |
| 事業開始日 | 実際に開始した日、または開始予定日 |
| 事業形態 | 個人事業主の場合はSole Trader |
| その他 | 以前のABNや事業登録など、該当する情報 |
TFNがまだない場合は?
ABNの申請にTFNを必ず入力しなければならないわけではありません。
しかし、ABRは、TFNなどを使って本人確認ができる場合、申請処理が早くなると案内しています。
特に外国人申請者では、TFNを入力しなかった場合、追加の本人確認書類を求められることがあります。
ワーキングホリデーで到着した方は、まずTFNを取得してからABNを申請すると、本人確認の手続きを進めやすくなるでしょう。
ただし、個別の状況によって必要な書類は異なります。
オーストラリア国外にいても申請できる?
オーストラリア国外にいる人でも、オーストラリア国内で事業を行っている、またはオーストラリアと関連する対象事業を行っている場合には、ABNの取得資格があることがあります。
しかし、単に将来オーストラリアで働きたいというだけでは、必ず申請できるわけではありません。
国外から申請する場合には、事業内容や本人確認に関する追加資料が必要になることもあります。
ABNを無料で申請する方法
ABNは、オーストラリア政府の公式ウェブサイトからオンラインで申請できます。
取得資格を満たしていれば、申請そのものは無料です。
個人事業主として申請する場合の基本的な流れを見てみましょう。
STEP 1.オーストラリア政府の公式サイトへアクセスする
まず、ABRの公式サイトにアクセスします。
ABNの申請方法や取得資格を確認し、オンライン申請へ進みます。
STEP 2.事業形態を選択する
個人で独立した事業を営む場合は、Sole Traderを選びます。
ソール・トレーダーは、日本の個人事業主に近い事業形態です。
法人を設立するわけではありません。
STEP 3.ABNを取得する資格があるか確認する
申請画面では、事業の内容や活動状況について質問されます。
実際に事業を営んでいるか、事業を始める具体的な準備があるかなどが確認されます。
単にABNが欲しいという理由ではなく、実際の事業活動に基づいて回答してください。
STEP 4.個人情報を入力する
氏名、生年月日、TFNなどの情報を入力します。
すでにオーストラリアでTFNを取得している場合は、正しい番号を入力してください。
本人確認に使用されるため、氏名や生年月日がATOの記録と一致していることも重要です。
STEP 5.事業の内容と開始日を入力する
どのような事業を行うのか、事業の開始日、所在地などを入力します。
例えば、独立したフードデリバリーの仕事を行う場合は、その実際の事業内容に対応する項目を選びます。
申請内容を実際の活動と一致させることが重要です。
STEP 6.必要な税務登録を確認する
ABNを申請する際には、GSTなどの税務登録についても質問される場合があります。
ただし、個人事業主だからといって、必ずGSTへ登録しなければならないわけではありません。
事業の種類や売上によって条件が異なります。
特に乗客を運ぶライドシェアの仕事をする方は、GST登録の特別な条件があるため注意してください。
STEP 7.申請内容を確認して送信する
最後に入力内容を確認し、オンラインで申請します。
申請が認められると、ABNが発行されます。
番号が表示された場合は、確認画面を保存しておきましょう。
また、申請内容の追加確認が必要な場合には、受付番号などが発行されることがあります。
この番号は問い合わせなどで必要になるため、忘れずに保存してください。
申請画面の項目や手順は変更される場合がありますので、実際の画面上の説明に従ってください。
ABNが発行されるまでの期間と申請料金
ABNの発行にかかる時間は、申請内容や本人確認の状況によって異なります。
ABRの公式案内では、申請が問題なく認められた場合、11桁のABNがその場で発行されます。
一方、追加の確認が必要な場合には、ABRは通常20営業日以内に内容を確認することを目標としています。
また、追加資料の提出を求められる場合もあります。
| 申請状況 | 発行までの目安 |
|---|---|
| オンライン申請がその場で承認 | 即時に発行 |
| 追加の確認が必要 | 通常20営業日以内を目標に確認 |
| 本人確認・追加資料が必要 | 状況によってさらに時間がかかる場合あり |
これらは政府が案内する処理方法であり、すべての申請が必ず20営業日以内に完了するという意味ではありません。
ABNの申請料金はいくら?
オーストラリア政府のABRから直接申請する場合、ABNの登録料金は無料です。
また、ABNの登録自体に毎年更新料を支払う仕組みはありません。
ただし、ABN申請を代行する民間業者へ依頼する場合は、サービス料金が発生することがあります。
インターネットで検索すると、有料のABN申請サービスが表示される場合がありますが、それが政府の公式申請料金という意味ではありません。
自分で手続きできる方は、政府の公式サイトから無料で申請できます。
事業名の登録は別料金
ABNと、ビジネスネーム(Business Name)の登録は別の手続きです。
例えば、自分の正式な個人名で事業を行う場合は、通常、別の事業名登録は必要ありません。
一方、独自の店名や屋号を使って営業する場合は、オーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investments Commission/ASIC)への事業名登録が必要になることがあります。
事業名登録には別途料金がかかります。
ワーキングホリデーで短期間フリーランスの仕事をする方は、まず自分の事業に事業名登録が必要かどうか確認するとよいでしょう。
ウーバーとウーバーイーツではABNの扱いが違う?
オーストラリアでABNに関する質問が多い仕事のひとつが、ウーバーを使った仕事です。
ただし、ウーバーで乗客を運ぶ仕事と、ウーバーイーツで料理などを配達する仕事では、税金の取り扱いに違いがあります。
ウーバーのライドシェアドライバー
ウーバーを利用して乗客を目的地まで運ぶ仕事は、ライドシェア(Ride-sourcing)に該当します。
独立した事業者としてこの仕事を行う場合、通常ABNが必要です。
さらに、重要なのがGSTへの登録です。
オーストラリア税務局では、タクシーやライドシェアの乗客輸送サービスについて、売上金額にかかわらずGST登録を必要としています。
例えば、年間売上がA$10,000しかなくても、独立したライドシェアドライバーとして乗客を運ぶ場合は、GST登録が必要です。
ウーバーイーツの配達員
一方、ウーバーイーツなどのフードデリバリーは、料理や商品を配達するサービスです。
乗客を運ぶライドシェアとは異なります。
独立した個人事業主として配達する場合は、通常ABNが必要ですが、GST登録については、原則として一般事業と同じ売上基準が適用されます。
年間のGST対象売上がA$75,000未満で、ほかに義務的な登録条件がなければ、通常はGST登録が義務付けられません。
ただし、A$75,000を超える見込みがある場合や、すでに登録している場合は取り扱いが異なります。
フードデリバリーとライドシェアを両方行う場合
例えば、平日は料理の配達を行い、週末には乗客を運ぶライドシェアを行う場合です。
同じ個人事業主が両方の事業を行い、ライドシェアの仕事によってGST登録義務が生じると、その登録は事業者全体に関係します。
そのため、フードデリバリーの売上についても、GSTの取り扱いを確認する必要があります。
| 仕事 | ABN | GST登録 |
|---|---|---|
| 独立したウーバーの乗客輸送 | 通常必要 | 売上に関係なく必要 |
| 独立したウーバーイーツ配達 | 通常必要 | 原則として年間GST売上A$75,000以上で必要 |
| 独立したドアダッシュ配達 | 通常必要 | 原則として一般のGST売上基準 |
| 会社に雇用される配達員 | 通常不要 | 雇用される本人には通常登録不要 |
ドアダッシュ(DoorDash)などの仕事も、実際にどのような契約で働くのかを確認してください。
また、各プラットフォームの登録条件、使用できる車両、保険、運転免許証などの条件は変更されることがあります。
ABNを持っているだけで、すべての配達サービスやライドシェアに登録できるわけではありません。
公式情報:ATO:フードデリバリー配達員のABN・GST・税務
GSTとは?A$75,000の登録基準を解説
ABNを取得する際に、もうひとつ知っておきたいのがGSTです。
GSTは、グッズ・アンド・サービス・タックス(Goods and Services Tax)の略で、オーストラリアの消費税に相当する税金です。
基本税率は10%です。
ただし、商品やサービスによってはGSTがかからないものもあります。
ABNを取得したら必ずGSTを払う?
いいえ。ABNを取得しただけで、自動的にGST登録が必要になるわけではありません。
一般的な営利事業では、年間のGST対象売上がA$75,000以上になる場合、GST登録が必要です。
また、今後12か月の売上がその基準に達すると見込まれる場合も、登録が必要になることがあります。
注意したいのは、A$75,000は利益ではなく、原則としてGST対象の売上高を基準として判断することです。
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
| 項目 | 例A | 例B |
|---|---|---|
| 年間売上 | A$30,000 | A$90,000 |
| 年間経費 | A$8,000 | A$50,000 |
| 利益 | A$22,000 | A$40,000 |
| GST登録 | 一般的には義務なし | 原則として必要 |
上記はすべての売上がGST対象で、ライドシェアなどの特別な登録条件がない場合の単純な例です。
例Bでは利益がA$40,000でも、売上がA$90,000あるため、GST登録の基準を超えています。
GST登録後は何をする?
GST登録した事業者は、GST対象となる売上についてGSTを計算し、税務局へ申告・納付します。
例えば、GSTを含む商品やサービスの販売額がA$110の場合、そのうちGSTはA$10です。
また、事業用の仕入れや経費に含まれるGSTについて、一定の条件で税額控除を受けられる場合があります。
GST登録した事業者は、通常、ビジネス・アクティビティー・ステートメント(Business Activity Statement/BAS)という申告書を提出します。
提出頻度は、事業者の条件に応じて毎月、四半期などに分かれます。
GST未登録なのに請求書へGSTを加算してもよい?
いいえ。GSTに登録していない事業者は、GSTとして税金を請求・徴収することはできません。
例えば、個人事業主として清掃サービスを提供していて、GST登録の義務もなく登録していない場合、請求書に勝手に10%のGSTを加算してはいけません。
一方、GST登録している場合には、課税対象となるサービスについて適切にGSTを計算する必要があります。
ABNの取得とGST登録は別の手続きです。事業の種類と売上に応じて、それぞれ必要かどうか判断してください。
公式情報:ATO:GST登録が必要になる条件
個人事業主と従業員の違い・偽装請負に注意
ABNで仕事をする場合に、最も注意したいのが雇用契約の問題です。
オーストラリアでは、会社に雇用される従業員と、独立して仕事を請け負う個人事業主では、法律上の権利や義務が異なります。
従業員と個人事業主の主な違い
| 項目 | 従業員 | 独立した個人事業主 |
|---|---|---|
| 契約関係 | 雇用契約 | 業務委託・請負契約など |
| 最低賃金 | 適用される | 原則として従業員向け最低賃金は適用されない |
| 有給休暇 | 雇用形態に応じて適用 | 通常、従業員向けの有給休暇はない |
| 所得税 | 通常は雇用主が源泉徴収 | 原則として自分で管理・申告 |
| 仕事の経費 | 雇用主負担または経費精算の場合あり | 通常は自分で管理 |
| スーパーアニュエーション | 原則として雇用主が拠出 | 契約内容によっては発注側に拠出義務あり |
個人事業主は、自分の事業として仕事を請け負います。
仕事の条件を自分で調整したり、複数の取引先と契約したりする場合があります。
一方、従業員の場合は、雇用主の指示のもとで仕事を行い、適用される最低賃金や労働条件の保護を受けます。
ABNを取れば最低賃金を払わなくてもよい?
これは正しくありません。
例えば、レストランで従業員と同じようにシフトを組まれ、勤務時間や業務内容を細かく指定されているにもかかわらず、雇用主から「ABNで請求書を出してほしい」と言われる場合があります。
しかし、実際には従業員に該当する人を、契約上だけ個人事業主として扱っているのであれば、法律上問題になる可能性があります。
このような取り扱いは、シャム・コントラクティング(Sham Contracting)、日本語では偽装請負と呼ばれることがあります。
オーストラリアでは、従業員を正当な根拠なく独立事業者として扱い、労働者の権利を回避する行為は法律で禁止されています。
ABNを持っていても従業員と判断される場合がある
判断に当たっては、契約書の名称だけでなく、実際の働き方や当事者間の関係などが考慮されます。
例えば、仕事内容の管理、仕事の自由度、器具や設備の提供、報酬の仕組み、ほかの顧客へのサービス提供などです。
これらの要素は全体として判断されるため、ひとつの条件だけで従業員か個人事業主かが決まるわけではありません。
ワーキングホリデーだからといって、違法な労働条件を受け入れる必要はありません。
ABNで働くよう求められた場合は、なぜその契約形態になるのか確認しましょう。
ABNで働く場合の請求書と給与の受け取り方
通常のアルバイトでは、雇用主が給与を計算し、税金を源泉徴収したうえで、従業員の銀行口座へ振り込みます。
一方、個人事業主の場合は、仕事の契約に従って報酬を請求し、代金を受け取ります。
ウーバーイーツなどのプラットフォームでは、アプリや事業者側のシステムを通じて支払いが管理される場合があります。
一方、個人でデザインや清掃、建設関連の仕事を請け負う場合には、自分で請求書(Invoice)を発行することがあります。
請求書に記載しておきたい項目
- 自分の事業名または正式な氏名
- ABN
- 請求書番号
- 請求書の発行日
- 取引先の名前
- 提供したサービスの内容
- 料金・数量などの計算
- 支払総額
- 支払期限
- 銀行振込先などの支払方法
GST登録している場合は、GSTに関する法律上必要な情報も記載します。
GST未登録の事業者は、GSTを加算しないようにしてください。
請求書の計算例
例えば、GST未登録のフリーランスが、取引先へ次のような仕事を提供した場合です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス | ウェブサイト画像制作 |
| 単価 | A$150 |
| 数量 | 3件 |
| 小計 | A$450 |
| GST | 未登録のため加算しない |
| 請求額 | A$450 |
これは計算例であり、実際の報酬相場を示すものではありません。
ABNを伝えないと47%引かれる?
オーストラリアには、事業者が取引先へABNを提示しない場合、一定の条件で支払側が代金から税金を源泉徴収する制度があります。
通常、ABNの提示が必要な取引で番号が示されず、例外条件にも該当しない場合は、支払額の47%を源泉徴収しなければならないことがあります。
ただし、これはすべての取引や、通常の雇用による給与に一律に適用される規則ではありません。
個人事業主として取引先に請求書を発行する場合は、自分のABNを正確に記載しておきましょう。
また、入金があったときには、請求額、入金額、入金日などを記録しておくと、年度末の税務申告がスムーズになります。
ABNで得た収入の税金とタックスリターン
ABNを使って個人事業主として働く場合、通常の従業員とは税金の管理方法が異なります。
従業員は、通常、雇用主が給与から所得税を源泉徴収します。
一方、個人事業主が仕事の報酬を受け取る場合、原則として自分で所得を記録し、必要な税務申告と納税を行います。
つまり、銀行口座へ報酬が振り込まれても、その全額を自由に使ってよいとは限りません。
後から税金の支払いが必要になる可能性があります。
個人事業主の税金は売上全体にかかる?
個人事業主の所得税では、通常、事業の収入から認められる事業経費を差し引いて、課税対象となる所得を計算します。
例えば、年間の収入と経費が次のような場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間事業収入 | A$30,000 |
| 事業に必要な経費 | A$8,000 |
| 事業利益 | A$22,000 |
この例では、税務上認められる経費がA$8,000であれば、事業利益はA$22,000になります。
ただし、実際の課税所得は、ほかの給与所得、税務上の調整、経費の控除条件などによって異なります。
また、GSTに登録している場合は、売上や経費のGSTの取り扱いについても考慮する必要があります。
ワーキングホリデーの15%税率はABNにも使える?
ワーキングホリデーで働く方には、一定の条件でワーキングホリデー渡航者向けの所得税率が適用されます。
ただし、ABNで得た事業収入について、請求時に自動的に15%が源泉徴収されるわけではありません。
最終的な所得税の計算は、税務上の居住者判定、ワーキングホリデーの税制、租税条約、ほかの所得などを考慮して行われます。
日本国籍者については、日本とオーストラリアの租税条約の関係で、税務上のオーストラリア居住者に該当する場合に、一般的な居住者税率が適用されることもあります。
単純に「ABNだから税率15%」「ABNなら非課税」と考えないようにしてください。
税金を支払うための資金を残しておく
個人事業主の場合、仕事の報酬を受け取った段階では所得税が差し引かれていないことがあります。
そのため、事業収入をすべて生活費に使ってしまうと、タックスリターンで税金を支払う際に困る可能性があります。
必要に応じて、将来の納税に備えた資金を別の口座などで管理するとよいでしょう。
また、所得や過去の申告状況によっては、PAYG Instalmentsという所得税の予定納付制度が適用される場合もあります。
タックスリターンはどうする?
オーストラリアの税務年度は、通常7月1日から翌年6月30日までです。
ソール・トレーダーは、通常、個人のタックスリターンに事業収入と事業経費を含めて申告します。
会社のように、個人事業主のための独立した法人税申告書を作るわけではありません。
また、ワーキングホリデーを終えて日本へ帰国する場合も、オーストラリアで発生した所得について申告が必要になることがあります。
申告時期や手続きは、ATOの公式サイトで確認してください。
配達・フリーランスの必要経費はどこまで認められる?
個人事業主として働く場合、収入を得るために必要な経費を、一定の条件で所得から控除できます。
ただし、事業に関係のない私生活の支出は、通常、事業経費として認められません。
また、事業と私生活の両方に使っているものについては、事業用の割合を合理的に計算する必要があります。
フードデリバリーで考えられる経費
例えば、独立したフードデリバリー事業者の場合、次のような費用が経費となる可能性があります。
- 仕事に使用する自転車やバイクなどの費用
- 配達用バッグ
- 事業用の携帯電話・通信費
- 仕事に使用する車両の燃料費
- 車両の修理・整備費用
- 事業用の保険料
- 業務に必要な登録や許可に関する費用
- 会計・税務申告に関する費用
ただし、これらがすべて購入した年に全額控除できるという意味ではありません。
車両や高額な設備などについては、資産の減価償却や別の税務ルールが適用される場合があります。
自転車や車を私生活でも使う場合
例えば、配達の仕事で使うバイクを、休日の買い物や観光にも使用している場合は、費用のすべてを事業経費にはできません。
業務で使った割合を計算し、合理的な記録を残しておく必要があります。
自動車については、使用状況に応じて認められる計算方法が異なります。
仕事で走行した距離や目的を記録しておくと、経費を計算する際に役立ちます。
携帯電話代も全額経費になる?
携帯電話を仕事と私生活の両方で使用する場合、通常は仕事に使用した割合を区分する必要があります。
例えば、月額A$60の通信プランを契約し、そのうち40%が業務での利用に当たると合理的に判断できる場合、事業用の通信費は月A$24という計算になります。
ただし、実際に何%を業務で使用したかを説明できる記録が必要です。
経費の領収書は保存する
事業の収入と経費に関する領収書や記録は、通常5年間の保存が必要です。
紙の領収書だけでなく、電子データで保存できる場合もあります。
ワーキングホリデーでは、帰国後に申告や問い合わせが必要になることもあるため、書類はクラウドなどで整理しておくと便利です。
なお、事業の性質や税務上の事情によっては、5年を超える保存が必要な記録もあります。
スーパーアニュエーション・保険・就労上の注意点
個人事業主として働く場合、所得税以外にも確認しておきたいことがあります。
そのひとつが、スーパーアニュエーション(Superannuation)です。
スーパーアニュエーションは、オーストラリアの退職年金制度です。
通常の従業員には、条件に応じて雇用主が退職年金口座へ拠出を行います。
一方、ソール・トレーダーは自分自身の雇用主ではないため、自分の事業から自分へスーパーアニュエーションを支払う義務は、通常ありません。
ABNで働いていてもスーパーが支払われる場合がある
ここは注意が必要です。
ABNを持っている個人事業主であっても、契約内容によっては、報酬を支払う側にスーパーアニュエーションの拠出義務が発生することがあります。
例えば、個人の労働力や技能を提供することが契約の主な目的で、本人が直接仕事を行い、労働時間に応じて報酬が支払われるような場合です。
ATOは、契約者がABNを持っているかどうかだけで、スーパーアニュエーションの支払義務が決まるわけではないと説明しています。
したがって、取引先から「ABNで働いているからスーパーは一切支払わない」と説明されても、それが必ず正しいとは限りません。
仕事中の事故と保険
フードデリバリーや清掃、建設関連の仕事では、業務中の事故やけがにも注意が必要です。
例えば、配達中に交通事故を起こしたり、取引先の物を壊してしまったりする可能性があります。
通常の海外旅行保険では、業務中の事故や特定の職業活動が補償対象外になる場合があります。
また、自家用車の保険が商業配達や有償の乗客輸送を補償しているとは限りません。
事業内容に応じて、車両保険、対人・対物賠償責任保険、業務上の事故に備える保険などを確認しておきましょう。
保険の条件は、州、事業内容、契約先によって異なります。
最低賃金の保護はどうなる?
本当に独立した個人事業主の場合、従業員向けの最低賃金制度がそのまま適用されるわけではありません。
ただし、デジタルプラットフォームを通じて働く一部の労働者については、2024年以降の労働法改正により、特別な保護制度が設けられています。
また、実態が従業員であれば、通常の労働法が適用される場合があります。
ABNを持っているという理由だけで、自分には労働法上の権利がないと判断しないようにしましょう。
仕事の契約条件に不安がある場合は、フェアワーク・オンブズマン(Fair Work Ombudsman)の公式情報を確認してください。
帰国・廃業するときのABNの取り扱い
ワーキングホリデーを終えて日本へ帰国する場合、ABNをそのまま放置してよいのか気になる方もいるでしょう。
ABNは、取得した後も登録情報を正しく管理する必要があります。
オーストラリア国内での事業を終了した場合や、オーストラリアと関連する事業活動を行わなくなった場合には、原則としてABNを取り消す必要があります。
事業を終了したらABNを取り消す
例えば、オーストラリアでフードデリバリーの仕事をしていた方が、ワーキングホリデーを終え、完全に事業を終了して帰国する場合です。
このような場合、ABRの公式サイトからABNの取消手続きを行えます。
また、ABRでは、事業を終了した場合など、登録内容の変更を認識してから28日以内に必要な更新・取消しを行うよう案内しています。
ABNを取り消す前に確認すること
- 未払いの売上や請求書がないか
- 税務申告が必要か
- GST登録がある場合、BASの提出が必要か
- 未払いの税金がないか
- 事業に関する登録を終了する必要があるか
- 事業用の記録を保存しているか
ABNを取り消しただけで、過去の税務申告や納税の義務がなくなるわけではありません。
また、ABNを取り消すと、GSTなど一部の税務登録も取り消されます。
そのため、必要な申告や納税を確認してから手続きを進めてください。
次のセカンドワーホリで戻ってくる予定の場合
将来オーストラリアへ戻る予定がある場合でも、現在の事業活動を終了しているのであれば、ABNの登録状況を確認する必要があります。
事業を一時的に休止しているのか、完全に終了しているのかによって、取り扱いが異なる場合があります。
帰国後もオーストラリアと関連する事業を継続している場合などは、個別の事情に応じた判断が必要です。
ABNの登録を終了する必要があるか不明な場合は、ABRへ確認してください。
オーストラリアのABNに関するよくある質問
まとめ|ABNは無料で取得できるが、税金と契約の仕組みを理解しておこう
オーストラリアのABNは、個人事業主や会社などの事業者を識別するための11桁の番号です。
独立した事業者としてウーバーイーツの配達、フリーランス、清掃などの仕事を行う場合に利用します。
条件を満たせば、ワーキングホリデーで滞在している日本人でも取得できます。
ABNはオーストラリア政府の公式サイトから無料で申請でき、問題なく承認されれば、その場で番号が発行される場合もあります。
ただし、ABNは就労許可証ではありません。ワーキングホリデーのビザ条件は引き続き守る必要があります。
また、個人事業主として仕事をする場合は、通常のアルバイトと異なり、自分で収入や経費を管理し、必要な税務申告を行うことになります。
GSTについても注意が必要です。通常のフードデリバリー事業と、乗客を運ぶライドシェアでは、登録条件が異なります。
さらに、ABNを持っているからといって、必ず法律上の独立事業者になるわけではありません。実際には従業員に該当する場合は、最低賃金やスーパーアニュエーションなどの権利が認められることがあります。
ABNを取得する前に、自分が本当に独立した事業者として働くのか、GST登録が必要か、税金と保険をどう管理するかを確認しておくことが大切です。
ウーバーイーツやフリーランスの仕事は、働く時間や仕事の選び方に柔軟性がある一方、事業者としての責任も伴います。
その違いを理解したうえで、自分に合ったオーストラリアでの働き方を選んでください。
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